Daft Punk - Random Access Memories


8.5/10点中

過去の作品の手法(=サンプリング)から離れ、
ナイル・ロジャースやジョルジョ・モロダーらトップクラスのアーティストの招聘、
生演奏によって自らの音楽観を再現しようとこの「Random Access Memories(以下RAM)」だが、
「ディスカバリー」のようなアッパーなアルバムとは言えず、失望したファンも少なくはないだろう。

が、ダフト・パンクがいつかこのような形をとる、というのは予想できないことではなかった。
サンプリングという手法で数々の名作を作り上げてきたダフト・パンクが、
次第にサンプリングという手法を続けるモチベーションが無くなり、
(トロン=レガシーの音楽を担当した際もそういった楽曲はもはや殆ど無くなっていた)
自分達の手で自分がサンプリングしてきた偉大な作品を作り上げたいという欲が出るのは
殊更不思議なことではない。

その点でこのアルバムは
リスナーが彼らの人生、彼らの人となりに向き合う、初めてのアルバムになるかもしれない。
つまり、マスクで顔を覆い、ロボットを自称してきた彼らが
自分たちの人間的な部分を果敢にもさらけ出そうとする、その営みが収められているのだ。

他のレビュアーの方々も言及しているように、
このアルバムには様々な彼らのルーツが散りばめられている。
前述のジョルジョ・モロダー、ポール・ウィリアムスは
両者ともブライアン・デ・パルマつながりで招聘されたということは特に有名な話だろう。
そして、アルバムの端々に現れる70年代のフィーリング、AOR、R&B。
「RAM」という名称そのままに、彼らは自らの「記憶」へアクセスしていく。
時代錯誤と言われればそうかもしれないが、
だからこそ今自らのルーツに立ち戻る意味はある、と彼らは言うだろう。
冒頭の「Give Life Back to Music」というタイトルからも、
今ここで生音に回帰しなければならないという彼らなりの使命感がはっきりと見て取れる。

アルバム全体を見ても、その使命感は良く表れている。
前述の「Give Life Back to Music」、「Get Lucky」は非常にエネルギッシュな曲であるし、
中盤の「Touch」は聴き手を否が応でも盛り上がらせる、名曲だろう。
ジョルジョ・モロダーをフューチャーした「Giorgio by Moroder」は
モロダーの鋭いシンセがDTMに親しんできた我々に生音の強さを感じさせてくれる。
「The Game of Love」の緊張感溢れるサウンドもまた魅力的だ。
後半に至るにつれ、徐々に70年代の音楽から現代の音楽に再び戻っていくような演出も
このアルバムのテーマを鑑みるとより印象深い。

が、アルバムとしてやや冗長な部分があることは言及せねばならないだろう。
「Get Lucky」以降も佳曲が揃っていることも確かだが、順序立てに欠けており、
アルバムへの没入感が削がれてしまう。
ミディアム・テンポな曲で固めずに
後半にもアッパーな曲を置いてほしかったというのが正直な感想だ。

しかし、だからといって、このアルバムは一聴しただけで切り捨てられるようなアルバムではない。
この「RAM」はダフト・パンクの音楽に対する真摯な態度が表明されている作品なのだから。
少なくとも僕はこの作品の全ては理解できていないし、
これから時間を経てよりこの「RAM」の持つ意味は大きくなっていくのだろう。
20年、30年後、このアルバムとどのような関係を築けているのか、私は楽しみで仕方がない。